特許出願/特許の利用に対する考え方

 現在、特許は、個人、中小企業にとっては、経済面で非常に利用しにくいものになっています。特許取得の費用が多額になるのに加えて、権利行使にも、より以上の費用がかかります。例えば、特許を取得するには、特許出願の後に出願審査請求をしなければなりませんが、その際に特許庁に支払う審査請求料が20万円程と、非常に高額です。

 しかし、事業活動を行う上で、特許は避けては通れないものであり、有効な活用を図ることが、他社との事業活動に打ち勝つ上で、非常に重要になります。なぜなら、特許は、いわば、他社の自由な事業活動を妨害する手段であり、自社製品と同じまたは類似する技術の実施(製造、利用、販売等)を妨害することができますし、自社では実施していないが、他社が実施することを妨害することもできるからです。

 新製品または新技術に対して、まず、特許出願すべきか否かを判断します。その際、他社を牽制する必要性(自社製品をどの程度、防衛するか)と、仮にも他社に類似内容(特に、次バージョンの構成)で特許を取得されるのを早めに防止する必要があるかどうかを判断することになるでしょう。
 特許出願は、所定の印紙代と共に出願審査請求書を提出することにより、特許性が審査されますが、その出願審査請求書は、出願から3年以内に提出すれば良いので、その間に市場動向を見て、出願審査請求するかどうかを判断します。

 とりあえず出願する場合、新規性、進歩性を備えている必要はありません。しかし、特許になる少なからざる可能性を秘めていない場合、無視されるだけであり、他社の事業活動を妨害できるものにはなりません。従って、多少なりとも、特許になる可能性を示す内容になっている必要があるでしょう。

 最終的に特許を取得することを目指す場合には、更に、他社の侵害態様を想定し、基本的な実施態様のみならず、種々の変更態様を明細書中に開示し、特許請求の範囲として権利範囲に含めておくことを考慮しなければなりません。出願後には補充できませんので、想定される考えられる限りの態様を出願時の明細書に盛り込む必要があります。

特許出願する場合の、メリットとデメリット
(1) メリット
・他社の事業化を牽制できる。
 特許になる可能性があれば、他社は、特許化を阻止するための資料収集、回避のための設計変更が必要になる。
・他社の特許取得を阻止する(特許は、早い者勝ち(先願主義))。
 特許を取得されないようにする:出願公開により新規性・進歩性の閾値が上がる
 先願主義(早い者勝ち)により、後願の特許を無効にできる。
・自社の技術開発力の誇示:特許は新製品を産み出す種
 特許→魅力ある新製品の可能性→競争力の強化/増大
・販売先、消費者に技術/製品をアピールできる。
・発明者による技術開発(新製品の種)へのインセンティブ
(2) デメリット
・自社の技術動向(程度、方向等)を他社に知られる。
・誤ってノウハウを開示してしまう可能性がある。
・開発中または実施予定の技術について他社にヒントを与える。
・出願費用、審査請求費用、特許後の年金費用がかかる。

特許出願しない場合の、メリットとデメリット
(1) メリット
・自社技術の内容(例:ノウハウ)と動向の秘匿
  (製品の販売や従業員の転職等で何れ他社に漏れることは避け得ない。)
・出願費用等がかからない。
(2) デメリット
・他社に特許を取得され、自社の自由な事業活動を妨害されるリスクがある。
・他社の特許を無効するためには、出願より格段に多い費用がかかる。
・技術者の開発意欲を別の方法で喚起しなければならない。

 他社の特許出願の特許化を阻止し、特許を無効にするための先行資料を探索し、拒絶/無効にするには、通常、出願費用の数倍から10倍以上のコスト(技術者の工数と人件費)がかかります。特許侵害の裁判に引きずり出された場合、一般的には、拒絶/無効化のためのコストの更に10倍以上のコストがかかります。これらの点でも、特許出願すること、特許を取得することで、非常に有利な立場に立てることが理解できると思います。この意味で、特許は、競争環境で企業が生き残るための、ある種の保険とも理解されるべきでしょう。

 明細書等にはあまり詳しく書くな、または書かない方が良いのでは、とおっしゃる方がいますが、これは、審査時や特許行使時に、もう少し詳しく書いておけば良かったのにとか、自明(書いてあると同視できるほどに明らかかどうか)で争いになることがしばしばあることを知らないからであって、通常は、ノウハウとして秘密にしておきたい事項は別にして、可能な限り詳しく実施例を説明(記載)すべきでしょう。製品を分解/解析すれば気付かれる事項は、全て書いておくぐらいの詳しさで挑むべきです。

 通常、特許事務所が代理する特許出願の出願時の手数料は、明細書のページ数に比例した部分を含みますが、その費用を節減する目的で記載内容の削減を指示される出願人/経営者/知財幹部がおられますが、些少の額(出願件数が多ければ、それなりの額にはなりますが)の節約でみすみす特許取得の可能性を下げ、権利行使を困難にするものであり、愚かとしか言いようがありません。勿論、全く不要な記述で出願時の手数料の嵩上げを図ることは、排除されるべきですが。